A Manual of Acarology (3rd ed.)

G. W. Krantz and D. E. Walter (eds.)
2009年発行
Texas Tech University Press, Lubbock, Texas
viii+807 pp.
US$175.00
ISBN 978-0-89672-620-8
出版社へのリンク: http://www.ttup.ttu.edu/BookPages/9780896726208.html


18巻2号掲載書評
 本書の初版は1970年に,第2版は1978年に出版されている.いずれもG. W. Krantzによる単著であったが,第3版である本書はD. E. Walterを編者に加えて,総勢10名の著名なダニ学者の手によって著されている.2006年にアムステルダムで開催された第12回国際ダニ学会の際には,この年に出版されるという噂が出ており,首を長くして待っていた待望の書である.毎年オハイオ州立大学で開講されている“Acarology Summer Program”では,第2版が頻繁に利用されていたが,正直なところ紙質が厚く,ボールド体の活字は読みづらく,使い勝手が良いとは言い難かった.しかし,本書に勝る類書はなく,その改訂が待たれていたわけである.第2版は509頁であったが,その後のダニ学の発展を受けて本書は807頁に増えているばかりか,紙質が薄くなり,ローマン体のやや小振りの文字(9ポイント)になったために読みやすく,分量は第2版の3倍近くになっているのではないかと推定される.加えて,本書では2006年までの関連論文と2007年に出版された主要論文を総輯して,115頁で4,000編を越えると概算される文献を載せている.この中には記載論文ばかりでなく,生態などに関する日本人の論文も多く引用されており,本邦のダニ学が国際的レベルにあることを良く物語るものになっている.
 本書は本文16章と文献,学名索引,事項索引で構成されている.緒言(第1章),ダニ亜綱の系統的位置づけに関する短い解説(第2章),外部形態と内部形態に関する49頁にわたる記述(専門用語はゴチック体表示で見やすく,また図を多用した説明がなされている;第3章),その次に繁殖と発生(第4章)および産卵と卵から成虫までの発育過程(第5章)がそれぞれ簡潔にまとめられている.第6章では棲息場所や食性など,第7章ではダニの採集から標本作製までを解説している.特に第7章では分類学における走査型電子顕微鏡(SEM)利用の有効性が述べられており(p. 93),事実本書の随所にSEM写真が掲載されている.手前味噌であるが,2009年に出版された『原色植物ダニ検索図鑑』(江原昭三・後藤哲雄編;全国農村教育協会)の本扉と59頁にも低温SEM写真を載せているが,この方法は体の柔らかいダニに有効であることが紹介されており,今後SEMを利用した記載論文が増えることを予感させるものである.第8章には上科以上の上位分類群の一覧と,上目・目・亜目への検索表が多くの注釈と共にまとめられている.しかしこの表は,最新の系統を反映した少し衝撃的なものである.従来,ダニ亜綱は7目に分類されていたが,本書では6目になっている.つまり,Superorder Parasitiformesの下にアシナガダニ目,カタダニ目,マダニ目,トゲダニ目の4目,Superorder Acariformesの下にOrder TrombidiformesとOrder Sarcoptiformesの2目が配置されている.そしてOrder Trombidiformesの下にケダニ亜目,Order Sarcoptiformesの下にササラダニ亜目や無気門(コナダニ)団が入っている(詳細な和名は本誌p. **を参照されたい).なお,ダニ目を亜綱にすることは,多くの日本の動物分類学者の支持するところとはなっていないが(例えば,小野展嗣 (2008) 鋏角亜門.節足動物の多様性と系統(岩槻邦男・馬渡峻輔監修,石川良輔編集),裳華房,pp. 122-167),本書第2版でも,またG. O. Evans (1992) [“Principles of Acarology”, C. A. B. International, Oxon, pp. 377-473.]でも亜綱として取り扱っている.
 第9章以降の各章は,アシナガダニ目,カタダニ目,マダニ目,トゲダニ目,Order Trombidiformes,Suborder Endeostigmata,ササラダニ亜目,無気門団の解説に当てられている.各分類群の解説のあとに亜目または団から科への検索表(緒言によれば540科)が配置され,そのうしろに関係する線画やSEM写真を置くという構成になっている.これは第2版の形式を踏襲したものであり,かなり馴染みのある線画が出てくる一方,新たに多くの図が追加されており,第2版(192図版)の1.8倍の量(337図版)に増えている.特に,大きな線画の中に毛の記号や形態的特徴となっている部位がきちんと矢印または直線で示されていることは,読者の理解を大いに助けてくれる.このような配慮は,著者らが永年Acarology Summer Programの講師を務めてきたことと無関係ではあるまい.
 約30年ぶりに全面改定された本書はダニ学の更なる発展に貢献し,次の数十年間,斯学のバイブルとして重用されることは間違いなかろう.多くのダニ研究者が本書を座右の書として活用されることを期待したい.

後藤哲雄(茨城大学農学部)