「ただの虫」を無視しない農業 生物多様性管理

桐谷圭治 著
築地書館
192ページ
2004年3月発行
2,400円(税抜)
ISBN 4-8067-1283-3 C0045
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13巻1号掲載書評
 「時代が研究者に追いついた」と、本書の隅々で主張された桐谷節を読み、改めて実感した40代・50代の農業生態学者は私だけではないであろう。概ねこれらの世代は、深谷昌次・桐谷圭治編『総合防除』(講談社、1973年12月発行)に触発され、農業昆虫生態学へと導かれた輩である。『総合防除』第2章「害虫の総合防除とは」および第3章「総合防除の理論」(いずれも故 巌俊一と共著)において、桐谷は化学農薬に頼りすぎない害虫防除システムの概念を提起した。30年の時を経て、彼はこの提起を自身の体験と幅広い情報収集で実証し、本書に書き残した。
 本書の構成では、豊富な参考資料とともに世界の農業(特にアジア圏)を位置付け、化学的防除の功罪を説き、その中から生まれた総合的有害生物管理(IPM: Integrated Pest Management)や総合的生物多様性管理(IBM: Integrated Biodiversity Management)までを要領良くまとめている。近年における有機農業や施設栽培の発展がもたらす害虫管理への影響も別章を当てて警鐘されている。
 本書の内容はダニ学と直接の関係はないが、第?章「施設栽培の生態学」には、ハダニとカブリダニに関する資料がしばしば引用されている。農業ダニ学分野に関係する諸氏には害虫管理の基本的認識への良き案内書となろう。本書の内容は他誌等で詳細に評されているので参照されたい。いくつかある編集上のミス(と思われる)中で、農生態系と農業生態系の2語が散見される点は気がかりであった。多くの研究者が用語の選択に迷う語句だけに、影響力のある著者に統一して頂きたかった。また、題名の英訳を「あとがき」で指定した配慮は大変有り難いが、出来れば目立つように後付け等に加えてほしかった。(なお、英訳での著者名にミススペルがあるので引用の際には気を付けられたい)。
 本書を読み終えて、本年75歳になる桐谷圭治が決して隠退していない事を確信した。これからも、彼の挑発を私たちは受け続けねばならないし、農業ダニ学に携わる者として誰も彼から逃げる術はない。

(千葉大学 天野 洋)